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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)12101号 判決 1997年1月23日

原告

村田友子

被告

渡邊博士

ほか一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自三六〇五万〇五二七円及びこれに対する平成三年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告池本友樹(以下「被告池本」という。)の運転する自動車の助手席に同乗中、被告池本が被告渡邊博士(以下「被告渡邊」という。)の運転する自動車に衝突する事故を起こしたため、右事故により負傷したとして、被告らに対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基き、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下の事実のうち、1ないし3、5は当事者間に争いがなく、4は甲第一八、第一九号証、第二〇号証の一、二、第二三号証及び原告本人尋問の結果により認められる。

1  被告池本は、平成三年一二月一六日午後八時五〇分ころ、大阪府堺市百舌鳥赤畑町一丁目四三番地先において、普通乗用自動車(大阪七七ね二九三九、以下「池本車両」という。)を運転して、駐車場から同所の道路に右折進入しようとしたところ、右道路を直進中の被告渡邊運転の普通乗用自動車(和泉五四ろ二四一八、以下「渡邊車両」という。)がスリツプして池本車両と側面衝突し、これにより池本車両が歩道上のフエンスに衝突した(以下「本件事故」という。)。

2  原告は、本件事故当時、池本車両の助手席に同乗していた。

3  被告渡邊は、本件事故当時、渡邊車両を所有して自己のために運行の用に供していた。

4  被告池本は、本件事故当時、池本車両を所有して自己のために運行の用に供していた。

5  原告は、渡邊車両に付された自賠責保険から一二〇万円の支払を受けた。

二  争点

1  原告の後遺障害

(原告の主張)

原告は、渡邊車両と池本車両の衝突及び池本車両のフエンスへの衝突によつて、右腰を池本車両のドアに叩き付けられ、椎間板ヘルニアの傷害を受け、右受傷により、第一仙髄神経あるいは第五腰髄神経に異常が生じ、そのため、右下肢に感覚異常が生じて歩行が困難となり、右症状は平成七年六月ころ固定した。現在、原告は、短距離であれば松葉杖を使用することなく歩行することが可能であるが、松葉杖を使用するのでなければ階段の昇降は不能であるうえ、屈むことができず、長く座つたままでいるのが辛いという症状が残存している。右症状は、局部に頑固な神経症状を残すものとして、自賠法施行令二条別表所定の一二級一二号に該当する。

(被告らの主張)

原告が主張する症状は、原告の既往症である腰椎椎間板ヘルニアによるものであり、本件事故とは因果関係がない。

2  原告の損害

(原告の主張)

原告は、本件事故により次のとおりの損害を受けた。

(一) 治療費 六七万八三一二円

(二) 入院雑費 一四万五六〇〇円

(三) 付添看護費 二五万二〇〇〇円

(四) 通院交通費 四万六〇〇〇円

(五) 通院付添費 五万七五〇〇円

(六) 休業損害 一四七七万〇一四〇円

(七) 逸失利益 一三三〇万〇九七五円

(八) 入通院慰籍料 二六〇万円

(九) 後遺障害慰藉料 二二〇万円

(一〇) 弁護士費用 三二〇万円

(被告らの主張)

いずれも争う(なお、被告池本は、原告は、本件事故当時被告池本と同棲生活を送つていたものであり、好意同乗減額がされるべきである旨主張する。)。

第三当裁判所の判断

一  原告は、本件事故により椎間板ヘルニアの傷害を受け、第一仙髄神経あるいは第五腰神経に異常が生じ、そのため、右下肢に感覚異常が生じて歩行困難の状態となつていると主張するので、まずこの点について検討する。

1  甲第二ないし第四号証、第二一号証、第二三号証、丙第一号証の二、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証、第六号証の一、二及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、本件事故後平成三年一二月一八日から同月二四日までの間西整形外科に通院し、腰部から左下肢にかけての痛み、左臀部から下肢にかけての痺れ感を訴え、外傷性腰椎椎間板ヘルニアとの診断を受け、低周波、投薬、静脈注射等の治療を受けた。しかし、同病院では右治療によつても症状は軽快しないものとされた。そして、原告は、同病院で今川病院への紹介状を書いて貰つたが、自宅から遠いこともあつて、いつたん田中病院へ行つたが、同病院には設備がなかつたため、同病院で改めて済生会茨木病院への紹介状を書いて貰つた。しかし、同病院でもベツドに空きがないため、同年中は入院できなかつた。

(二) 原告は、平成四年一月七日になつて済生会茨木病院に入院したが、入院中に行われた下肢伸展挙上テストの結果では右二〇度、左二〇度であり、また、左足外側に知覚鈍麻が認められたが、牽引治療及び仙骨裂孔ブロツク等による治療の結果、症状が軽快となつて同年二月五日には退院し、以後同月六日から同年七月八日まで通院した。しかし、同月九日になつて再度同病院に入院し、左坐骨神経痛、外傷性椎間板症等の病名で治療を受け、MRIで第五腰椎、第一仙椎間に椎間板ヘルニアが認められたが、転院を希望し、同月一八日には退院した。

(三) その後、原告は、平成四年七月二〇日から同年一一月八日まで医真会八尾病院に入院し、更に同月九日から平成六年六月三日まで同病院に通院し、同日症状固定の診断を受けた。この際の原告の症状としては、下肢伸展挙上テストの結果では右三〇度、左七〇度とされ、右アキレス腱反射低下、右前股省筋、長母肢伸筋筋力低下があつたほか、下腿部全体に右では知覚消失、左では知覚鈍麻があり、腰痛及び両下肢痛のための歩行障害により移動には車椅子を要する状態であつた。なお、入院中のMRIによる所見では、第五腰椎、第一仙椎間に椎間板ヘルニアが認められた。

(四) なお、原告は、一三歳のとき中学校で棒高跳びをして地面に落ちて腰を打ち、腰椎椎間板ヘルニアが生じたため手術を受けたことがある(ただし、その部位は不詳である。)ほか、平成二年一二月一三日に、下肢痛のため歩行不能となり、市立柏原病院で診察を受け「腰椎椎間板ヘルニア術後」と診断されたことがあり、また、済生会茨木病院で平成四年一月九日に行われたMRI検査の結果、原告の高位腰部に椎間板ヘルニアは検出されておらず、既往症である腰椎椎間板ヘルニアの再発ではないかと疑われていた。

2  ところで、丙第一号証の一、二によれば、平成六年一〇月四日、当時大阪厚生年金病院整形外科に勤務していた山本利美雄医師は、原告を診察した結果、原告の主訴及び自覚症状は左下肢に力が入らない、しびれて歩けないというものであり、このとき原告は車椅子で同病院に来院し、起立及び歩行をせず、右下腿全体に靴下状の知覚鈍麻が認められたが、下肢伸展挙上テストの結果左右とも九〇度であり、両膝蓋反射も正常で、下肢の周経は大腿周経は左右とも三七で同じ、下腿周経も左三一、右三〇でほぼ同じで、筋萎縮が認められなかつたことから、原告の主張する右下肢の麻痺は神経学上説明不能な麻痺形態であり、画像上の所見からも麻痺は説明不能であり、心因性因子の関与が大であると判断したことが認められる。また、証人山本利美雄の証言によれば、原告が主張するような麻痺が真に原告にあるとすれば相当顕著な筋萎縮が生じているはずであること、膝蓋腱すなわち大腿四頭筋の腱の反射が正常であるということは大腿四頭筋を支配する第三、第四の腰神経の動きは下肢の左右で差異がないと考えられること、下腿部全体の知覚異常は抹消神経炎やヒステリー等の疾病においてはありうるが、腰脊髄神経の障害では起こり得ず、神経学上説明不能な麻痺形態であることが認められる。

3  以上によれば、原告の主張する症状は、画像上の所見や各種検査の結果と合致せず神経学的・整形外科的に説明することが困難であるうえ、本件事故とは関連性のない疾病によるものである可能性、更には、既往症等との関連による心因性のものである可能性も否定できず、本件事故を契機に発症したものであると認めるに足りないから、原告の主張する症状と本件事故との間には相当因果関係を認めることはできないというべきである。

二  そうすると、原告が主張する症状が本件事故と相当因果関係のあるものとは認められない以上、これを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくすべて理由がないことになる。

よつて、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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